2010年5月11日火曜日

千字文


250の句になる本書は
梁の武帝が、周興嗣に作らせたものとして知られています。
一句が漢字四字で書かれているため「千字文」と名付けられました。
そして千字全てが異なる文字で書かれています。

古来、漢字の初級教材や書道の手本としても用いられてきましたが
その内容はかなり難しいもので、とても子供向けとは思えません。

冒頭は「天地玄黄 宇宙洪荒」で、宇宙論から始まります。
上辺の言葉尻だけを追わずに、その意に想いを馳せれば
本書の持つ深い味わいが伝わってくるでしょう。
私が最初に手にしたのは、今から30年ほど前のことですが
千字文は、実に多くの示唆を与えてくれました。

大概の翻訳本には、現代語訳がついていますが
これまで読んだ数種類の中には、頷けるレベルの訳がありませんでした。
「老子(道徳経)」もそうですが、
やはり自ら体験を積み重ねながらその真意を思量しなければ、
本当のところはわからないのだと思います。

「求古尋論 散慮逍遥」
古に道を求め、論を尋ねる。
囚われや拘りを解き、こころまかせ(逍遥)に生きる。

ここでの論は、先人達の智慧を指します。
特定の教えを盲信(固執)するのではなく、
幅広く学ぶことで真の自由を得よう、ということでしょう。
「逍遥」とは、荘子の「逍遥遊」に通ずる考え方です。
日本の国学で言う「惟神(かむながら)」と同じようなスタンスです。
ですから、この「逍遥」は単に
「のびのびと満足に暮らす」(某書の訳)
などという薄っぺらい意味ではありません。
荘子の説く悟りの境地そのものなのですから。